『ケメコデラックス!』および水島努過去作品のEDクレジットにおける「遊び」

 今期のTVアニメではイチオシでありながら、なかなか書きにくいのが水島務監督『ケメコデラックス!』であります。というのも、単純なようで複雑な作品とでも称せばよいのでしょうか、なかなか語りにくい作品だと実感しているからです。例えば、キャラクタ配置の面白さとか、無表情キャラの極地としてのケメコとか、水島努は相変わらず萌え=エロと勘違いしていて最高だぜ!とかあるのですが、どうにもこうにも難しい。無表情キャラをネタに、視覚情報より聴覚情報の方が優先されるのだ!みたいな話を書こうと思っていたのですが、この優先順って個体差もあるし時と場合にも依存するはず。うーん、難しい。
 ま、そんな愚痴めいたことを言っていても仕方がないので、とりあえず目先のネタを追ってみます。というわけで、本エントリではケメコデラックス!』EDクレジットにおける「遊び」についてまとめ、さらには水島努の過去作品にまで遡り、最終的には「キュー・テック板倉玄とは何者なのか?」という、いささか大仰過ぎるテーマに結び付けたいと思っております。
 ……先に記しておきますが、まだ第8話という中途半端な時期にこのようなエントリを書くのは、先出しジャンケンのようで申し訳ないのですが、色々と発見があったので書かせていただきます。というわけで、以下本題。

ケメコデラックス!』EDクレジットにおける「遊び」

 まずは基本情報です。『ケメコデラックス!』は現在絶賛放送中のTVアニメでして、なかなかイカした&イカれた内容で、自分を含むダメ人間を心の底から楽しませてくれています。その監督を務めているのが水島努です。この事実は後で重要になってくるので、心のどこかにとどめておいてください。『ケメコデラックス!』的に言えば「はーい、今noir_k先生いいこと言ったぞー。メモっとけー」(CV千葉紗子)という感じですかね。
 で『ケメコデラックス!』EDクレジットにおける「遊び」ですが、まずはid:shikifuneosamuさんのエントリを見てください。

 さて、第7話のEDクレジットを観ていて、自分を含む多くの人が気づいたと思われるのですが、「ビデオ編集」でクレジットされている名前がおかしなことになっていました。

※TVアニメ『ケメコデラックス!』第7話EDより。
 文字化けかよっ!と突っ込みたいところですが、よくよく見ればギャル文字。へえ、と思っていたら、第8話ではもはや文字ではないという境地にまで達してしまいました。

※TVアニメ『ケメコデラックス!』第8話EDより。
 暗号かよっ!と突っ込みたいところですが、その答えにはすぐに気が付きました(この謎の答えは下表で)。で、第1話からEDクレジットを見直した結果、id:shikifuneosamuさんが指摘されているように、「ビデオ編集」クレジットが毎回変わっていることに気が付きました(……やられたぜ)。ちなみにid:shikifuneosamuさんのまとめでは第4話が間違っていますので、誠に勝手ですが訂正させていただきます。すでに訂正されています。

話数 表記 備考
第1話 板倉ゲン
藤原エリカ
名前を片仮名に。
第2話 いたくら玄
ふじわら英理花
苗字を平仮名に。
第3話 G・板倉
E・藤原
名前を頭文字にして、外国人風に。
第4話 坂倉 玄
藤腹英理花
苗字を誤字に。板⇒坂、原⇒腹。
第5話 いたく L@ げん
ふじわ R@ えりか
L⇔Rっぽくて、ちょっと格好良い?
第6話 イタクラゲン
フジワラエリカ
全部片仮名に。
第7話 レヽナニ<5 レ†”ω
、ζ,ι”ヮ5 ヱL|カゝ
ギャル文字。Wikipedia「ギャル文字」を参考。
第8話 「Wingdings」フォントで「ITAKURA GEN」「FUJIWARA ERIKA」。
第9話 んげらくたい
かりえらわじふ
平仮名で、逆さから。
第10話 板倉 玄
藤原英理花
あれっ?本名がちゃんと書かれてる。
第11話 痛苦羅 厳
腐死我裸餌璃華
暴走族風当て字。よかったー、普通じゃなくなって。
第12話 板倉英理花
藤原 玄
あやうく見逃しそうになりましたが、苗字と名前が入れ替わってます。

※ちなみに正しくは板倉玄、藤原英理花さん(キュー・テック)です。

 この表は随時更新していく予定です更新完了しました。さあさ、どこまで暴走するのでしょうか。楽しみです。

補足:「ビデオ編集」ってどんな仕事?

 ところで「ビデオ編集」って、どんな仕事なのでしょうか。下にアニメ(特に現在一般的になっているデジタルアニメ)の制作フローをまとめてみました。ちなみに自分は一ファンにすぎないので、間違っている恐れがあります。基本的にはDAM(デジタルアニメマニュアル)用語集を参考にさせていただきました。

  • CT(カッティング):映像を尺に合わせて編集する作業
  • AR(アフレコ):映像に合わせて声(セリフ)を録音していく作業
  • DB(ダビング):セリフ、効果音、音楽などの音響素材を1つにまとめる作業
  • V編(ビデオ編集):映像、音を1本にまとめ、納品出来る形にする作業

 大体お分かりになりましたか?簡単に言うと、ばらばらの音と映像を1枚のDVDにする、という感じでしょうか。この作業で、テロップ入れや一部の映像加工(フィルター掛けなど)が行われるそうです。もう少し具体的なビデオ編集の仕事は山手実(キュー・テック)インタビューに詳しいです。

水島努過去作品のEDクレジットにおける「遊び」

 閑話休題。というわけで、『ケメコデラックス!』におけるEDクレジットの「遊び」ですが、なぜ「ビデオ編集」の板倉玄&藤原英理花だけがいじられているのか、という疑問が残ります。そのとき、EDクレジットの「遊び」ということで思い出したのが、『ケメコデラックス!』と同じ水島努監督によるOVA撲殺天使ドクロちゃん』でした。

水島努の過去作品

 先に水島努監督についてあまり知らない方のために、少しばかり説明させていただきます。水島努は、かつてはシンエイ動画に所属し、『クレヨンしんちゃん』や『ジャングルはいつもハレのちグゥ』で活躍していました。その後フリーになってからは『撲殺天使ドクロちゃん』や『大魔法峠』といったイカれた作品から、『xxxHOLiC』や『おおきく振りかぶって』というマトモな作品までこなす、現代を代表する人気アニメ監督のひとりです。特に『撲殺天使ドクロちゃん』『大魔法峠』という2作品は、ジェネオン エンタテインメント川瀬浩平P(通称「偽まる」)つながり*1ということで、本作『ケメコデラックス!』と大きな関係があります。年代順に並べると、次のようになります。

 今回、これらのEDクレジットを見直してみると、面白い発見がありました。

撲殺天使ドクロちゃん』(2005年)における「遊び」

 前述した『撲殺天使ドクロちゃん』のEDクレジットですが、これはWikipediaに掲載されているくらい有名な話でして、その内容は、全4巻で計4パターンあるEDクレジットに、それぞれ異なった追加情報が記述されているというものです(正確には第1巻はノーマルで、第2巻以降に追加情報が付与されています)。

OVA撲殺天使ドクロちゃん』第2巻より。こんな感じですべてのクレジットに追加情報が記述されています。
 『撲殺天使ドクロちゃん』には、本エントリで取り上げた板倉玄も「ビデオ編集」として参加しています。各EDにおける付加内容とともに、クレジットの「ビデオ編集」の部分を抜粋してみます。

巻数 クレジット内容 「ビデオ編集」クレジット
第1巻 名前のみ 板倉 玄 白井基記
第2巻 名前+血液型 菊地美和(O型) 白井基記(O型)
板倉 玄(A型・アメリカ出張中)
第3巻 名前+12星座 菊地美和(やぎ座)
板倉 玄(しし座)・白井基記(うお座
              k○r○s作業中
第4巻 名前+出身地 板倉 玄(飯坂町) 白井基記(秋葉原

 よく見ると、ちょっとおかしいです。「アメリカ出張中」とか「k○r○s作業中」(ちなみに『鴉-KARAS-』ですね)とか、他の人にはない余計な情報が多いです。さらに、一見普通に見える第4巻も、他の人が「青森」とか「兵庫」とか都道府県レベルなのに対して、「ビデオ編集」の2人は妙に細かいです(笑)。「飯坂町」って、どこだよ(ちなみに調べてみましたが、福島県福島市にあるみたい)。
 なぜだか分かりませんが、この2005年の時点ですでに、板倉玄(あるいはキュー・テック?)はいじられキャラ」になっていたことが想像できます。

大魔法峠』(2006年)における「遊び」

 もう、余計な能書は不要ですね。さっそく紹介したいと思います。ちなみに『大魔法峠』は全4巻で計4パターンのEDクレジットがあります。『撲殺天使ドクロちゃん』のような付加情報の「遊び」はありませんが、ご期待にもれず、なぜか「ビデオ編集」というか「板倉玄」だけがおかしなことになっています。

巻数 「ビデオ編集」クレジット 備考
第1巻 板倉・ザ・玄
丸尾恵美
アンドレ・ザ・ジャイアントとかジャック・ザ・リッパーのノリ?
第2巻 エルゴ・板倉
菊地美和
立川貴巳
同時期の『エルゴプラクシー』を板倉氏が担当していたからか?
第3巻 ねこにゃん板倉
立川貴巳
同時期の『ちょこッとSister』を板倉氏が担当していたからか?
ハレンチ☆パンチねこにゃんダンス』がそのED曲でした。
第4巻 H.D.イタクラ
D.V.フジワラ
よく分からないです(笑)。HD=ハイデフ、DV=ディジタルヴィデオ?

 他の人のクレジットを一切いじっていないので、板倉氏への「異常な愛情」が嫌が応にでも伝わってきます(笑)。そして極めつけは第4巻。本エントリで取り上げた『ケメコデラックス!』のEDで水島努氏の餌食(?)になっている板倉玄&藤原英理花コンビです。同じ「ビデオ編集」でも丸尾恵美などが一切いじられていないのと対照的に、藤原英理花はいきなりいじられています。おそらく、藤原英理花もまた、板倉玄のような「いじられキャラ」のように思われます。

撲殺天使ドクロちゃん2(セカンド)』(2007年)

 ここまでの流れから、もうお分かりになるでしょう。とにかく、すごいことになっています。ちなみに『撲殺天使ドクロちゃん2(セカンド)』は全2巻で計2パターンのEDクレジットがあります。

巻数 「ビデオ編集」クレジット 備考
第1巻 いた★くら
ふじ☆わら
らき☆すた』のもじり。
第2巻 板倉・F・玄
藤原英理花A
正確には○の中にA。藤子不二雄のもじり。

 ちなみに第1巻の『らき☆すた』ネタは、第3話のコンテ・演出を『らき☆すた』監督を途中降板した山本寛(通称ヤマカン)が務めていることからだと考えられます。また第2巻の藤子不二雄ネタは、水島努と『ドラえもん』あるいは藤子プロとの確執(詳細は書かないので、各自ググってください)だったり、そもそも『撲殺天使ドクロちゃん』自体が『ドラえもん』のパロディになっていることからネタ元にしていると考えられます。
 とにかく、現在放送中の『ケメコデラックス!』のEDクレジットの謎は、水島努作品の変遷を辿ることで、だいたい見えてきたのではないでしょうか。

まとめ:板倉玄とは何者なのか?

 というわけで、ここまでいかに板倉玄(および藤原英理花)が「いじられキャラ」なのかを辿ってきたわけですが、実際に板倉玄とはどのような人なのでしょうか。というわけで検索したところ、板倉氏が氏の所属する株式会社キュー・テックの中途採用ホームページに掲載されていますので、ご覧ください。
 ここから分かるのは、板倉玄が仕事に真面目な人間で、「監督に対し、「こう編集したほうがより心に響く映像になるのでは?」といったクリエイティブな提案」ができるような人ということでしょう。端的に言えば、優秀なエディタということです。さらには、おそらく人間性豊かな人物だと思われ、監督等のスタッフと良い関係を築けているのではないかと想像できます。EDクレジットを入れる作業は、「ビデオ編集」で行われる作業だと考えられます。その際に、監督と育まれた良い関係性の中で、このような「遊び」が生まれたのではないか、と推測できます。
 「ビデオ編集」という仕事は、あまり目立つ仕事ではないと思われます。しかし作品を支えている必要不可欠な仕事であり、そこに本エントリのような形で注目することができて良かったと思います。よくよく調べると、板倉玄は数多くの作品に参加されていて、この人なしに自分たちはTVアニメを見ることはできないということを学びました。これからも素晴らしい作品をよろしくお願いします!板倉さん!……インプレスムック『メイキングボックス アニメとマンガの制作現場』あたりで「ビデオ編集」も取り上げてくれれば嬉しいのにな、などとひとりごちながら、冬の雨の冷たさに身をすくめる連休最終日でございます。

*1:本当はここに元ショウゲート伊平崇耶Pを加えたいのですが、ショウゲートの方針転換(?)と氏の日活への転職から、『ケメコデラックス!』には参加していないのです。