AKB48のPV監督まとめと『10年桜』の死生観

 お世話になっております。id:noir_kでございます……なぞと、15ヶ月前(!)と同じ出だしではじめてみました。あらためましてid:noir_kです。どっこい生きている。

 ちょっといろいろあったりなかったり、やっぱりあったようななかったような、そんな波動方程式に支配された量子力学的空間に囚われていたシュレディンガーid:noir_kとしては久々のはてなダイアリー登板となり、少々緊張しております(笑)。まあ、特になにもありませんでした。淡々粛々と日々を過ごしておりました。……数年前に記したようにblogからTwitterにベタな移行を果たしたんじゃないんだからね! 本当なんだからね!(ツンデレ

 とまあ15ヶ月ぶりの駄文はこの程度にしておいて、そろそろ本題に入らせていただきたいと思います。……とは言っても、アニメネタではありません。仮にもアニメブログ的な扱いをしていただいていたのに申し訳ないなあと思いつつも、よくよく振り返ると批評ネタや日常ネタやアニラジ・声優ネタやミステリネタなど多岐に渡って取り扱っていましたので、ご興味を持たれた方はぜひとも過去ログを御覧くださいませ(宣伝)

 というわけで、あまり気にせずマイペースにAKB48のPVについて書かせてください。正直、AKB48のファンではないので(というか顔と名前が一致しないレヴェル……)おこがましい限りなのですが、生暖かい目で見つめられると素直におしゃべりできない(惜しい!)。

PVをエサに音楽を売る!

 先日とあるところで「PV商法の元祖はモーニング娘。LOVEマシーン」という(根も葉もない?)噂を耳にしました。なるほど、少し調べてみると1999年9月9日(9999!)に発売された本作でモーニング娘。は初のミリオンを達成し、その名を日本中に知らしめたのは間違いないようです。しかもPVの方向性を本作で変えているらしいです*1。そもそもここで「PV商法」などという造語?を使用していますが、これはPVを主、音楽を従という形で音楽を売る商法という程度の意味で使用しています。

 ただ私見では、PV商法は8cmシングルCDから12cmマキシシングルへの流れの中で確立されたと考えています。12cmマキシシングルが登場しはじめたのが、偶然なのかモーニング娘。LOVEマシーン』が登場した1999年頃になります。『LOVEマシーン』はちょうどその過渡期なにか、ケース+ジャケットは12cm、中身のディスクは8cmという変則仕様になっていたようです。……調べるまで知りませんでした(笑)。

 なぜマキシシングル化とPV商法が関係するかというと、同時期にDVD(こいつも12cm盤)が加速度的に普及していったからです。ちょうと同時期から家庭用PCにDVDドライブが搭載されるようになりはじめ、ダメ押しは2000年3月4日に発売されたSONYPlayStation2』だったと思います。その中でマキシシングルに同サイズのDVDを同梱して売り始めたのが(おそらく)エイベックスで、時期としては2003年頃からになるようです。DVDに入っているコンテンツはもちろん、PVです。*2

 2006年にメジャーデビューを果たしたAKB48もその例に漏れず、メジャー1作目『会いたかった』から初回限定盤の大部分でPVのDVDが封入されています。そこにはもちろん、アイドル=ビジュアルという事情も大きく影響しているはずです。

AKB48楽曲とPV監督の変遷

 上記でAKB48がPVを特典とするまでの流れについて考えましたが、そもそも自分がAKB48のPVに感心を持つようになったのは、近年のAKB48PV監督が有名人ばかりであることに気がついたからでした。きっかけは20010年2月の『桜の栞』(PV監督は岩井俊二*3)だったと思います。しかもその直後の『ヘビーローテーション』は蜷川実花だし……とAKB48を1曲聞いたことなかった自分ですが、その事実だけはなんとなく知っていたのでした。その頃は観ていなかったのですが、諸処の事情(笑)で2011年秋からざらざら観るようになって、その面白さに吃驚したわけです。
 というわけで、2011年11月時点でのAKB48楽曲のPV監督をまとめてみました(メジャーデビュー以降のみ)*4。はい、ここが本エントリの本題です(笑)。

No 発売日 タイトル PV監督
1 2006年10月25日 会いたかった 平川雄一
2 2007年1月31日 制服が邪魔をする 須永秀明
3 2007年4月18日 軽蔑していた愛情 高橋栄樹
4 2007年7月18日 BINGO! 竹石渉
5 2007年8月8日 僕の太陽 竹久正記
6 2007年10月31日 夕陽を見ているか? 高橋栄樹
7 2008年1月23日 ロマンス、イラネ 竹石渉
8 2008年2月27日 桜の花びらたち2008 高橋栄樹
9 2008年6月13日 Baby! Baby! Baby! 森祐樹
10 2008年10月22日 大声ダイヤモンド 高橋栄樹
11 2009年3月4日 10年桜 高橋栄樹
12 2009年6月24日 涙サプライズ! 高橋栄樹
13 2009年8月26日 言い訳Maybe 高橋栄樹
14 2009年10月21日 RIVER 高橋栄樹
15 2010年2月17日 桜の栞 岩井俊二
16 2010年5月26日 ポニーテールとシュシュ 高橋栄樹
17 2010年8月18日 ヘビーローテーション 蜷川実花
18 2010年10月27日 Beginner 中島哲也(お蔵入り)
19 2010年12月8日 チャンスの順番 内製(じゃんけん大会+通常PV)
20 2011年2月16日 桜の木になろう 是枝裕和
21 2011年5月25日 Everyday、カチューシャ 本広克行
22 2011年8月24日 フライングゲット 堤幸彦
23 2011年10月26日 風は吹いている 黒田秀樹

 本表をみていただくと一目瞭然の通り、初期はいわゆるPV監督を単発で起用しており、15作目『桜の栞』の岩井俊二以降、いわゆる有名(大物)映画監督を起用していることがわかります(蜷川実花中島哲也是枝裕和本広克行堤幸彦)。そんな中、特筆すべきは「高橋栄樹」このひとです。経歴からすると初期に単発で起用されたいわゆるPV監督*5のひとり(3作目『軽蔑していた愛情』)なのですが、6作目『夕陽を見ているか?』で再起用され、現在までに9本のPVを手がけています。

 近年のAKB48メジャー化の流れの中で、それを後押しするように有名監督の起用を行なっていて、おそらくそれなりのリターンになっていると思われます。特に、個人的な観察になりますが、AKB48がいわゆるアイドルオタク層から外に広げられたのは、女流監督・蜷川実花の手による『ヘビーローテーション』が若い女子に受けたのが大きいと思います*6。しかし、そのベースには高橋栄樹による世界観が根底にあることに注目することができるでしょう。

余談:AKB48のPV鑑賞法について

 ……について書こうと思っていたのですが、長くなりそうなのでやめておきます(笑)。今度あらためて、独学で学んだAKB48のPV鑑賞法について書かせていただきます。ヒントは「断片」「予告編」「物語消費」「認知限界」あたりです。ちょっとハッタリ入ってます(!)。

高橋栄樹の死生観と『10年桜

 とここまでAKB48の世界観における高橋栄樹の貢献について示したのですが、ここからが実は本当の本題。取り上げるのは2009年3月発売の『10年桜』です。まずはAKB48のPVはYouTubeで公式配信されていますので、下記をご鑑賞ください。

 はい、ご覧のとおりドラマ仕立てのPVになっています。ドラマ部分が現在?で音楽部分が過去?くらいの区別はつくと思います。冒頭から意味深な手紙が出てきたりしていて、はっきり言ってすとんと腑に落ちないと思います。これがAKB48のPVの特徴なのです(笑)。

 まずストーリをざっと追って……といきたいのですが、AKB48のPVの内容の語りにくさは、まず各キャラクタの名前がわからない(爆)。それもまたAKB48のPVの特徴なのですが、そんなことを言っていてもはじまらないので、ざっくりめに内容を説明します。ドラマパートではどうやら卒業10年?の同窓会があるようです。なんだか意味深なことしかみんな言っていないので確証はないのですが。だけど最後までみるとわかるように、同窓会は開かれてはいないようです。前田敦子と妊婦姿の大島優子*7が堤防の上でちょっとおしゃべりしてまた別れる。表面上のストーリはそれだけにすらみえます。

 ここでひとつメタ情報。2009年3月に発売された曲のPVをなぜいま取り上げるのかというと、実は2011年1月にこのPVに関する重大な発見?再発見?があったようなのです。詳細は「AKB48の10年桜のPVって、死後の世界って本当?(AKB48まとめんばー)」をご覧ください。どうやらそれまではAKB48ファンたちはなんだかよくわかんないPVをだなぁと観ていたらしいのですが、その解釈が発見?再発見?されたということらしいのです。

 その過程で出てきたPV監督・高橋栄樹のコメントというのがあります。出典はAKB48特集が組まれた2009年12月の『Quick Japan』Vol.87のようです。

10年桜』のPVは、『桜の花びらたち2008』で感じた「卒業」や「桜」に一種の死生観が出てる気がする。入学とは誕生で、卒業とは死。もちろんその死は、次のステージでの「誕生」を意味する再生でもある。学校って、生と死のサイクルを擬似的に体験する場所なんじゃないか、っていうね。あのPVってどこか夢っぽいし、あの世っぽい。10年後の前田と大島が思い出してる、夢の中の学校やバス。だから学校も装飾過多でサイケデリックだし、スクールバスも「なんでこんなところで?」って思うような何も無い所で降りてもOKになる。大島の妊婦姿も誕生の象徴だし、PV中の高橋みなみに死のイメージを感じた人は、鋭いと思う。

 細部はさておき、この高橋栄樹の発言がほぼすべてを語っているとは思うのですが、ただすっと不可解に思われながらも流されていたPVにこのような仕掛けを埋め込んでくるあたり、ちょっとこの高橋栄樹という人間はすごいと思うのです。とりわけ、ここで語られている死生観「入学とは誕生で、卒業とは死(中略)学校って、生と死のサイクルを擬似的に体験する場所なんじゃないか」というのは、震災以降の現代においてきわめてクリティカルだとすら思えてくるのです。

 本当は最後にこのPVの解題というか、普通にみていても誰が誰だかわからないので、それくらいはまとめようと思ったのですが、長くなるので今度の機会にします。ただニコニコ動画とかみれば(確認してませんが)それぞれの人物の上に名前のテロップがコメントでついていると思いますし、解釈については「【再考〜PV・10年桜〜】10年桜のPVが死後の世界ってホント??(「急がば回れで一回転」)」あたりが詳しくまとまっているので、ご参照ください(ネタバレ注意)。

おまけ(というわけで宣伝です!)

サークル名:反社会人サークル(ウ-05)
     (id:hanshakaijin
頒布:第13回文学フリマ
開催日:2011年 11月3日(木・祝)
会場:東京流通センター 第2展示場 Fホール(2階)

 すみません。自分が[twitter:@2tar]、[twitter:@Nerd_Arthur]とやっているサークルでミニコミ誌『ロウドウジン』Vol.3を頒布します。社会「人」不適合というか反=社会人サークルというかな感じでして、何を言っているのかよくわからないと思いますが、今号は「死」をテーマにいろいろやってます。あと毎号、表1〜4を使って反社会人アイドルのグラビア+インタビューをやっています。今回は[twitter:@avycko]さんにご登場いただいています。とにかく、説明しにくい内容ですので、ぜひ遊びに来てください!id:hanshakaijinで目次や既刊のサンプル等を公開しています。

 この同人誌が実は本エントリに深く関係しているのです。本エントリで紹介した『10年桜』の死生観「入学とは誕生で、卒業とは死」に相当する「入社とは生で、退社が死」という死生観(を正確には発展させたモデル)を偶然、われわれ反社会人サークルも本同人誌で提唱しているのです。じゃあ本当の死とはどういうものなのか、あるいは不当な死を迎えないためにはどうすれば良いのか、そんなことも書かれています。他にも「自殺社会うさぎ」(『自殺うさぎ』のパロディ)とか面白おかしいことをいろいろやってますので、詳細はぜひお手にとっていただけたら嬉しいです。

サークル名:暁Working(B-10)

 また表紙画像等はないのですが、B-10: 暁Workingさまの新刊『littera3』に1万字ほどの短編小説を寄稿しています。自分には何の注文もなかったのですきなように書いたら主宰の[twitter:@aquirax_k]さんから「佐藤友哉のデビュー前みたいな感じ」という、処女作がデビュー作である作家の喩えで評されました。いやはや。内容は寄稿者のひとりであるid:murashitさんのエントリ「みんな〜、文学フリマの告知だよ〜☆」に詳しいです。

 以上、文学フリマでボクと握手!(超訳よろしくお願いします

追伸:お久しぶりすぎて長く書きすぎちゃった(笑)。

*1:それまでは屋外ロケ撮影だったのが、本作から5年間ほどスタジオ撮影になっているらしい

*2:少し長めの補足を。当時、もうひとつあった流れが、ブロードバンドの普及によるmp3の普及(違法流通)でした。Napsterは2000年前後ですが、その後のアップローダによるものだったりファイル共有ソフトによるものだったりにより、ライト層の購買離れが進みました(個人的にはこの層はTSUTAYAなどレンタルCDサービスを利用していたので、あまり関係ないと思っていますが……)。ほぼ同時期に音楽CDの売り上げ低迷が顕著になりつつあったため、おそらく各レコード会社が考えたのが特典商法でした。そのひとつに、当時のインターネットではファイルサイズ的にまだ流通が難しかった映像を付ける方法があったと個人的には考えています。ちなみに余談ですが、その後、アニメのDVDが売れなくなった(これは1タイトルあたりの売上低下をタイトル数増で確保しようとしたところ、タイトル間の売り上げ差が顕著になり、全体感として規模が縮小されたようにみえただけだと個人的には考えています)ときにページ数の多いブックレット、オーディオコメンタリ、フィギュア等、インターネットに流出させにくいものが特典になったことと似ていると思います。

*3:代表作は『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』など。個人的に超大好きな映画監督だったり。

*4:なぜだかわからないんだけど、こういうまとめがどこにもないので2011年頭頃からローカルで作成してアップデートしていました。何のために……それは不明。

*5:代表作はTHE YELLOW MONKEYほか多数。個人的な興味では明和電機のPVを撮ってるひとだったりします。しかもオムニバス映画『Jam Films 2』で短編の監督をやったりもしている方です(なるほど)。

*6:逆に本来のコアターゲット層である男子にはあんまり受けなかったようです。さもありなん(笑)。

*7:アイドルが妊婦姿というのもよく考えるとすごいものですね。