『428〜封鎖された渋谷で〜』発売記念、おすすめの「グランドホテル形式」物語たち

 さて2008年12月4日、セガチュンソフトによるWiiサウンドノベルゲーム『428〜封鎖された渋谷で〜』が発売されました!拍手!……実はまだ購入していないという不信心者で申し訳ないのですが。だって、Wii持ってないんだもん!パンツじゃないから恥(以下略)。
 この作品、タイトルである『428』*1=渋谷が象徴しているように、1998年の『街〜運命の交差点〜*2の正統続編のような位置づけにあると考えられます(まだ未プレイなので、本当にそうなっているのかどうかは分かりませんが)。謎の『ファミ通』クロスレビュー満点という良いんだか悪いんだかよく分からない話題もありましたが(笑)。しかし、いまだプレイできていない自分ではありますが、せっかくなので『428』そして『街』のような、いわゆる「グランドホテル形式」と呼ばれる群像劇に着目してみようと思います。……本エントリは長くなりそうなので、サクサク行くよ!

まず「グランドホテル形式」とは

 Wikipedia該当項目から引用させていただきますと、「同一時間および同一の場所に集まった複数の人物の行動などを、同時進行的に一度に描く作品の手法」と表現されています。これはもともと、1932年のエドマンド・グールディング監督によるアメリカ映画『グランドホテル』に端を発しており、そこで採用されている類の作劇手法をこのように呼称するようになったようです。
 本エントリでは、その代表格ともいえるゲーム『街〜運命の交差点〜』をはじめ、自分のおすすめする「グランドホテル形式」の物語を紹介したいと思います。特に日本製のもので、異なった物語メディアのものを紹介しようと思います。

ゲーム『街〜運命の交差点〜』(1998年、チュンソフト

爆弾魔を追うオタク刑事、意中の女性にプロポーズを挑もうとする元ヤクザ、日本に帰国したばかりの傭兵、ノイローゼに悩まされる作家、謎の組織の元で他人を脅迫し続ける大学生……。渋谷を舞台に運命と運命が交差する!




 もうこのエントリ中で何回も名前が出てきているこのタイトル。このゲームは、いわゆる「サウンドノベル」(これはチュンソフトのテキストアドベンチャーに付けられるジャンル名で、背景画像の上に文章が表示され、時折提示される選択肢によってインタラクティブに物語が進行していくというゲームスタイル)です。本作では「ザッピング」というシステムで、視点キャラクタを変えながら、すべての主人公をハッピーエンドに導くゲームになっています。
 本作では8人の主人公、8本のメインシナリオが、5日間にわたる渋谷の「街」を舞台に交錯します。「人生において自分が主人公であり、他者の人生において自分は登場人物のひとりにしか過ぎない」というあまりにも当然な発想のもとで、あるキャラクタのストーリー進行を他のキャラクタの行為で介入していく気持ち良さがこのゲームにはあります。渋谷駅前のスクランブル交差点ですれ違う100人のキャラクタ(=人間)には100個の異なったストーリー(=人生)があるのです。その一部をゲームを通じて垣間見ながら、その根底には「渋谷」という「街」がどっしりと存在していることに気が付かされます。そしてラストには……。同じものを見ても、見る人が異なれば、感じることも異なるのです。
 本作はゲームにしては珍しく、キャラクタの存在感の観点から、実写が採用されています。「実写ゲームは売れない」という法則を崩すことはできませんでしたが(笑)、大変素晴らしい作品で超オススメです。PSP版も出ていますよ。……自分はPSPも持っていないけどさ(涙)。

映画『THE 有頂天ホテル』(2006年、三谷幸喜監督)

晦日でてんやわんやの高級ホテル「アバンティ」。分かれた元妻と唐突に再会した副支配人、汚職事件でマスコミから逃げてきた悪質代議士、そしてその元愛人の客室係、夢破れたベルボーイ、死にたがる大物演歌歌手、ホテル内で迷子になる総支配人……。無事、ホテルは新年を迎えられるのか?



 ここで本来ならば、「グランドホテル形式」の原点たる『グランド・ホテル』を紹介するべきなのかもしれませんが、国産限定ということで。本作は公開当時、方々で監督である三谷幸喜自身が語っていたように、『グランドホテル』を強く意識した作品になっています。例えば、本作の舞台となっているホテル「アバンティ」のスィートルームの名前が『グランドホテル』キャストの名前になっていたり、作中でも『グランドホテル』に対する言及があったように記憶しています。
 1つ目の『街』のように明確な主人公の数、ストーリーの数は断定できませんが、20人以上、6つ以上のメインストーリー(かなり適当な数字で申し訳ありません)が、大晦日の夜10時から新年を迎えるまでの2時間のあいだに(リアルタイムに)展開されます。舞台がホテルということで、密室劇としての趣もあります。三谷幸喜らしい、細かいところまで行き届いたキャラクタ造詣が素晴らしいです。そんなキャラクタたちはホテルという「場所」、そしていくつかの重要なアイテムによってつながっていき、ラストではそろって新年を迎えます。
 ……ただ、本音を言うと、自分は『ラヂオの時間』の方が好きです(笑)。その判断に、この作品における欠点が隠れていると考えています。

小説『ドミノ』(2001年、恩田陸

一億円の契約書を待つ生命保険会社からお菓子の買出しに出てきたOL、オーディションを受けに来た子役とその母親、推理力を競い合うミステリ研の大学生、別れを画策する青年実業家、俳句会の待ち合わせをする老人、訪日中のホラー映画監督……。昼下がりの東京駅で「ドミノ」が音を立てて倒れ始める!



 本作の舞台は実在の東京駅。巻頭には地図まで付いています。そこで繰り広げられるのは、10人以上のキャラクター、5つ以上のストーリー(ごめんなさい。今手元に本がないので、記憶に頼っています)。『ドミノ』というタイトルから分かるように、「取り違えられた荷物」という起爆剤から様々な人々、物事があたかもドミノ倒しのように連鎖していきます。小説の特性からでしょうか、物語の収束のさせ方がすごくうまかった印象があります。あまり書くとネタバレになりそうなのですが、本作は「場所」の影響力が上で紹介した作品に比較すると弱く、代わりにメインとなるストーリーの求心力が強くなっています。
 正直、恩田陸という作家は優れていると思いますが、個人的には手放しで評価はできないと考えています。そんな中で、本作に関しては最高!の一言です。テキストのみの小説ですから*3、キャラクタの書き分けに不安を覚える方もいるかもしれませんが、恩田陸の筆致による生き生きとしたキャラクタ描写は無問題。ジェットコースタームービーのような爽快感すら味わえる、良質のエンタテインメント作品に仕上がっています。

アニメ『BACCANO!−バッカーノ!−』(2007年、大森貴弘監督)

若きマフィアの幹部と多くのマフィアたち、コスプレ強盗カップル、リーダー奪還を企てるテロリスト、快楽殺人鬼、顔に刺青の入った不良少年、事件を調査する新聞社の人間、行方不明の兄を探す富豪の娘、はては錬金術師やら伝説の幽霊「レイルトレーサー」やら伝説の殺し屋やら……。謎が謎を呼ぶ群像活劇!ヒャッハァ!



 原作は成田良悟によるライトノベル(2003年〜、電撃文庫)。舞台は1930年代、禁酒法時代のアメリカ。テレビアニメ版では1930年のニューヨーク、1931年の大陸横断鉄道「フライング・プッシーフット号」、1932年のニューヨーク、そして1711年の大西洋航海中の客船「アドウェナ・アウィス号」を舞台に、30人以上のキャラクターたちがバッカーノ=馬鹿騒ぎ(イタリア語)を繰り広げます。鍵になるのは、飲むと不死になるという「不死の酒」。時間、場所が異なる4つの舞台で、様々なキャラクタの視点から、それぞれのキャラクタの物語が螺旋のように絡み合います。
 物語の中心に来るのは1931年の「フライング・プッシーフット号」のトレインジャック事件。そこに偶然乗り合わせた人々、錯綜する策謀、過去そして未来との因果、謎めいたキャラクタたち……。1話の中で時間、場所、そして視点キャラクタがどんどん変わるのは一筋縄ではいきませんが、画面をじっと凝視して物語世界に浸りましょう。原作である小説版も素晴らしい出来ですが、このアニメ版も2007年個人的アニメランキングの3本の指には必ず入る大傑作です。

まとめ

 とまあ、4ジャンル4作品を紹介しました。なぜか「まんが」がありませんが、単に適切な作品が思い浮かばなかっただけです。上では結構意図的に書いたつもりなのですが、「グランドホテル形式」において主役は「場所」なのだと思います。これは物語とのそこまで強固な関連性が必要と言いたいわけではないのですが、最終的に物語の雰囲気を決定するのが、この「場所」だと思うのです。
 あと大事なのは、ラストで物語をどのように収束させるか、という点。上で紹介したものは「時間制限」ものが多いのですが、キャラクタたちがラストに味わう、場所に束縛された共通体験がどのようなものかによって、作品の印象が大きく変わります。散漫な小さな物語がゆるくつながっている『街』のような作品から、すべてがひとつに収束していく『ドミノ』のような作品まで、様々な面白さがあると思います。
 「グランドホテル形式」の楽しさは、個々の魅力的なキャラクタ造詣はもとより、絡み合う人物関係&ストーリー。皆さんも、おすすめの「グランホテル形式」の作品がありましたら、是非教えていただけると幸いです。

*1:ちなみに「よんにいはち」が正式な読みらしいです。個人的には「よんにっぱ」と呼んでいますが。

*2:ちなみにセガサターン版の正式タイトルは『街』だけで、サブタイトルは付いていませんでした。

*3:実はハードカヴァー版には、少しだけですが、キャラクタのイラストが付いています。これはなかなか興味深いポイントですが、長くなるので今回は省略。