『ストライクウィッチーズ』と『ヘタリア』から学ぶ国擬人化

 どうやら皆パンツがお好きなようで(笑)。「SW」といったら『スターウォーズStar Wars)』か『ストライクウィッチーズ(Strike Witches)』だっ!いやいや『サクラ大戦(Sakura Wars)』だっ!何だとっ!表に出ろ、この野郎っ!……そんな論争がいたる街角で行われているという噂(嘘)の『ストライクウィッチーズ』ですが、その愛らしい登場キャラクタたちには大戦中の各国エースパイロットがそのモデルキャラクタとして存在するということを以前のエントリでも指摘したことがありました。相変わらず詳細はまとめWikiとかを見ていただきたいのですが、『ストライクウィチーズ』のキャラクタデザインにはそのモデルキャラクタの存在が大きく影響を与えていると考えられています。
 このような背景を持つ作品は不謹慎だといわれかねない危うさを持っているのは事実です。そもそも日本はあれだけの悲惨な体験としての戦争を過ぎ去った歴史として封じ込め、かたやエンタテイメント萌え作品として消費していって良いのか、という良識ある「オトナ」たちの声も聞こえてきそうです。そういう意味ではパンツズボンもといパンツのようなものの効用というべきか、眉をひそめるタイプのオトナは一目見た時点で裸足で逃げ出す、という素晴らしい構造になっています。いやぁ、パンツって本当にいいもんですね!
 それぞれのモデルキャラクタからキャラクタを創造する際、モデルキャラクタの特徴や生い立ちなどを考慮してデザインされているのが分かります。例えば坂本美緒の右目に関してはモデルキャラクタである坂井三郎が戦闘中の負傷で右目が失明同然になっていたことに由来しますし、シャーロット・E・イェーガーが超音速飛行を目指しているのはモデルキャラクタのチャック・イェーガーが史上初の超音速水平飛行を達成したエピソードに由来します。ただ原典を参照しているのはそれだけではなく、外見のデザインから使い魔の種類(例の獣耳と尻尾)、使用武器にストライカー・ユニット(足にはめている機械)のデザイン、戦闘スタイルや性格を含めたプロフィール、そしてパンツズボンのデザイン(!)にいたるまで様々です。以前のエントリで誕生日のことを書きましたが、彼女らの出身国もまたモデルキャラクタと同一になっています(作中では架空の名前になっていますが)。
 この出身国というプロフィールもまた、キャラクタデザインにおいて大きな影響を与えていると考えられます。すごく分かりやすい例としては、アメリカ空軍のチャック・イェーガーをモデルとしたシャーロット・E・イェーガーが巨乳キャラなのは、おそらくアメリカという点からの発想と考えられるでしょう*1。そういう意味では、『ストライクウィッチーズ』のキャラクタ造詣は一種の国擬人化と捉えることが出来るかもしれません。
 そこで思い出すのが、ド直球で国擬人化をやっている日丸屋秀和Axis powers ヘタリアタイトルから想像できるようにイタリアを擬人化した歴史コメディで、2つの世界大戦のエピソードを中心したまんがです。『ストライクウィッチーズ』も1944年が舞台ですので、ほぼ同時期の世界を記述した作品といえるでしょう。『ヘタリア』は主人公のイタリア(キャラクタの名前がそのまま国の名前になっています)をはじめとして、そのキャラクタデザインは前述の通りド直球の国擬人化(あるいは国民性擬人化)になっています。
 そこで本エントリでは『ヘタリア』を補助線に『ストライクウィッチーズ』における各国キャラクタを比較検討することで、国擬人化について学びたいと思います。しかも運の良いことに『ストライクウィッチーズ』が女子バージョン、『ヘタリア』が男子バージョンになっているのです。まずは両作品のキャラクタをざっとご覧ください。以下、国別に見ていきたいと思います。またキャラクタ説明ではWikipedia該当項目およびまとめwiki「ヘタリア」「ストライクウィッチーズ」を参考にさせていただきました。


 上は『ストライクウィッチーズ』。下は『Axis powers ヘタリア』。……書かなくても分かるよね、こんなこと。

イタリア

 
 まずは『ヘタリア』の主役たるイタリアから。以下、複数のときは左からで、括弧内の表記は作中の国名です。

男子キャラ『ヘタリア』よりイタリア

 イタリアはタイトルである『ヘタリア』からも分かるとおり、いわゆるヘタレキャラになっています。これは大戦中におけるイタリア軍のエピソードにヘタレなものが多いことから来ているようです。性格的には陽気で楽観的で社交的なラテン気質。だけど、臆病で泣き虫な側面もあります。どこか抜けていて少々甘えん坊、喋るときに手足が動いたり、鼻歌がうるさかったり、スキンシップ大好きだったりします。趣味は料理とシエスタ(昼寝)、絵画にデザイン。パスタとピッツァとチーズ大好き。芸術方面に優れる一方、軍事面での能力が極端に低いようです。

女子キャラ『ストライクウィッチーズ』よりフランチェスカ・ルッキーニ(ロマーニャ公国)

 ルッキーニは通称「ガッティーノ(子猫)」から分かるように、ちっちゃくやんちゃなおてんばさん(これは死語だろうか……)。木の上だろうと梁の上だろうと、所かまわず昼寝をする猫っぷり。その気まぐれで自由奔放でマイペースな性格は作中のいたるところで見ることができます。ウィッチーズ最年少ということもありコドモらしい人懐っこさに溢れ、美食家で昼寝好き、訓練をサボるのもしょっちゅうで協調性は皆無。しかし戦闘に関しては天才的な実力を有しています。

総合

 こう見ると結構似ていますよね。やはりイタリア人のイメージは楽観的で自由奔放という感じでしょうか。快楽主義者であり、美味しいご飯を食べて指を頬に当て「ボーノー♪」なんて言いながら昼寝をしているイメージです。さらに付け加えるならば、そのような多少迷惑な性格にもかかわらず、何故か許されてしまうキャラクターであるのも特徴的ではないでしょうか。

ドイツ

 

男子キャラ『ヘタリア』よりドイツ

 華やかなヨーロッパ文化の影で貧しさと度重なる戦争を生き抜いてきた騎士の国ドイツ。性格は生真面目で、とにかく規則や秩序を守ります。仕事も休暇も常に真剣。ビールが好きですが、ビールが入ると普段蓄積されていた鬱憤が外に出るという2面性も。趣味は貯蓄、掃除、犬の散歩、菓子作りなど。何をやらせてもそつが無い。機械を過信し過ぎ、カーナビ使うとトイレに突撃したりすることもあります。

女子キャラ『ストライクウィッチーズ』よりミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、ゲルトルート・バルクホルン、エーリカ・ハルトマン(帝政カールスラント)

 ミーナはウィッチーズの隊長で、上品で清楚、常に笑顔を絶やずに、いかなる状況においても冷静沈着なお姉さま的存在。なんでもそつなくこなすことができ、特に歌が得意のようです。
 ゲルトはウィッチーズの副官にしてエースであり、地味で堅実な現実主義者。性格は生真面目で、自分にも他人にも厳格で、一時の感情に流されない委員長タイプ。普段は硬い表情ですが照れ屋の一面もあり、時にそれが崩れる事もあります。
 エーリカはボーイッシュで幼い外見に反して、豊富な戦闘経験と高い能力からウルトラエースとして君臨しています。口数は多くないけれど、仲間思いで誰からも愛されており、常に仲間たちの中心にいます。しかし、常に眠たそうな気だるい感じであり、ずぼらで自分の部屋の掃除もままならないほどです。

総合

 女子バージョンは性格が結構異なりますが、きっとエーリカが特殊なだけでしょう。ドイツのイメージとしてはやはりその生真面目で厳格な性格が共通しています。ドイツ人は車が全く走っていなくても赤信号なら渡らない、という話を聞いたこともあります。その厳格さが頑固にかわりかねないのも特徴的かもしれません。

日本

 

男子キャラ『ヘタリア』より日本

 島国だったためか独自の文化と風習を持っていて、他の国から見るとミステリアスに見えるが本人は自分は至って普通だと思っている面があります。性格は少し世間知らずだが真面目で勤勉だが、他人に合わせてしまい自分の意見をはっきり言わないところがあります。200年間引きこもっていたために他人との接触が苦手で、礼儀正しく温厚ではあるが無気力な態度をとることが少なくありません。また、いわゆるオタクであり、ゲーム、漫画、写真など守備範囲は広い様子です。

女子キャラ『ストライクウィッチーズ』より坂本美緒宮藤芳佳(扶桑皇国)

 坂本美緒は戦闘指揮官であり、また新人にとっては鬼教官でもあります。性格は豪放磊落で情に厚く、気さくで温和。厳しくもアタタカイ教官です。服装は『ヘタリア』の日本と同じく白の士官服。
 宮藤芳佳は主人公でウィッチとしては新人。元々は治癒能力者で実戦経験はゼロでした。誰とでもすぐに仲良くなれる明るい性格で、純朴で何事にも前向きで一所懸命。時にその真っ直ぐさゆえに周りが見えなくなり、戦闘でのピンチを招くこともあります。潜在能力はずば抜けて高いけれど、その強大さゆえ制御はうまく出来ないという状況です。料理が得意(和食限定)という家庭的な側面もあります。

総合

 はっきり言って女子バージョンの2人は超主要キャラクタということもあり、日本的な性格というよりはヒロイン的性格が強く反映されているように思えます。それでも共通点は少なくなく、少し世間知らずだが真面目で勤勉なところが特徴的です。一言で表すと「愚直」ですかね。エピソードとしては坂本の肝油、芳佳の納豆など、日本独自の食べものから見える特異性はまだまだ日本の典型像なのかもしれません。

アメリ

 

男子キャラ『ヘタリア』よりアメリ

 開拓精神で何事もポジティブに考え、すぐ実行する性格。ヒーローや正義、自由、あとハンバーガーが大好き。ちょっと回りを気にしなさすぎなせいか、友達が少ないです。腕力が強く筋肉質な体つきだが、最近太ったのを気にしています。味覚は鈍感で、何だって平気で食べてしまいます。趣味はゲームと映画作り、スポーツ、ゲーム、映画、考古学。

女子キャラ『ストライクウィッチーズ』よりシャーロット・E・イェーガー(リベリオン合衆国)

 シャーリーは「グラマラス・シャーリー」の二つ名の通り、部隊一のナイスバディを誇っています。結果オーライの能力主義で、細かい事に拘らないおおらかな性格。きれい好きで、扶桑皇国が基地に持ち込んだお風呂が大のお気に入り。魔道エンジン二輪車の速度記録保持者であり、入隊後もストライカー・ユニットによる超音速飛行を目指しているスピード狂。

総合

 やはり特徴的なのは男子なら筋肉ムキムキ、女子ならダイナマイトボディ。現実的には肥満が問題視されている国ですが、2次元のヒーロー・ヒロインにデブは不要なのです。性格的にはポジティブで大らかなところが特徴的です。シャーリーの最速エピソードはモデルによるところが大きいですが、でっかいバイクにまたがっているのはアメリカ的な典型像なのかもしれないと思います。また自由の国アメリカですので、能力主義的な側面が性格に出るのではないでしょうか。訴訟大好きみたいな付加価値も現代ならアリかもしれません(木村カエレ的な)。

イギリス

 

男子キャラ『ヘタリア』よりイギリス

 元海賊、今紳士。お菓子を作ればテロと言われ、マクドナルドを三ツ星シェフが絶賛する国のようです。元海賊なのをいいことに苛めを行う、ヨーロッパ一の暴れん坊。酒癖はすこぶる悪く、友達も少ない。性格は皮肉屋で負けず嫌いで少し意地っ張り。最初は冷たいように見られがちだけど、仲良くなると意外と尽くす方。いわゆるツンデレ。口は悪いが根っからの悪い奴ではない。趣味は刺繍や料理など。紅茶をこよなく愛している。幽霊や妖精や魔術、伝説といったものが大好き。

女子キャラ『ストライクウィッチーズ』よりリネット・ビショップ(ブリタニア連邦)

註:リーネのモデルキャラクタであるウィリアム・ビショップはカナダ出身のイギリス空軍所属でした。一部混同があるようですが、リーネは作中でブリタニア(イギリス)出身と明言されています。
 リーネは8人姉妹の真ん中という大家族で育ったために面倒見がよく、料理、裁縫、編み物が得意で家庭的。おっとりとしてマイペースであり、仲間たちへの気配りを欠かさない性格です。しかし一方ではドジッ子な面があり、大失敗をやらかす事もしばしば。密かにシャーロットに次ぐ巨乳だが、本人はあまりその点に言及されたく無いようであり、サイズを実測値より明らかに小さく自己申告しています。

総合

 典型的イギリス人像って何だろう、という疑問が湧いてきます。うーん、よく分からない。性格が違いすぎます。リーネの服装はロンドンのカレッジガールっぽいとは思うのですが。イギリスもロンドンと地方では全然イメージ違いますしね。曇りと晴れというか。

フランス

 

男子キャラ『ヘタリア』よりフランス

 戦闘はあまり得意ではなく、ワイン片手に観光客の案内したり農業でワイン用の葡萄を作ったりしている方が性にあっています。性格はプライドが高く、言葉の美しさ芸術面に関しては世界一を自負しており、綺麗なものは何でも好きです。服装も華美なものを好みます。何となくフェロモンむんむんな感じもあったり。

女子キャラ『ストライクウィッチーズ』よりぺリーヌ・クロステルマン(ガリア)

 貴族の子女であり、自らの能力に絶対の自信を持ち非常にプライドが高いです。自分より能力で劣る者を認めようとしないで、辛く当たる事が多いです。一方で寂しがり屋でもあり、心を許した相手には意外な一面を見せることも。つまりツンデレです。戦闘ではスタンドプレーに走りがちで、チームワークを無視した行動に出ることも少なくないです。

総合

 特徴はずばり華美である点とプライドの高さでしょう。そしてなによりも貴族。何故フランス人のイメージが高いプライドにつながるのか解せませんが。何となくお嬢様っぽいのが「キィー」って言っているのが似合うというか。セレブのイメージでしょうか。なんか適当なまとめ方になってきたな、おい(笑)。

まとめ

 以上で『ストライクウィッチーズ』と『ヘタリア』から国擬人化について考えてみました。意外に重なっている特徴が多くて驚きました。まあ、想定内の当然ともいえる特徴も少なくありませんが(笑)。だけど国民性っていうものは、確実にあるんですね。調べていて感じたのは、もし国擬人化をやるとするとそれは特徴のデフォルメであり、悪い点も特徴としてあらわれざるを得ないということです。期せずしてある種の差別的表現になってしまう可能性が高いということです。有名人が欠点を誇張される似顔絵を嫌がるような感じです。そうなると苦情が来るのは必須です。それを避けるためには、『ストライクウィッチーズ』を見習って、パンツズボンを丸出しにするような「それ以上の突っ込みどころ」を用意して、肝心の問題から目を背けさせる方法が有効だと思います。
 これだけで終わるのは申し訳ないので、タイタニックにまつわる国民性のジョークを念頭に、国別「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」の理由を考えてみました。

イタリア「スースーして気持ちいい!えっ、別に恥ずかしくないよ。……ZZZ」
ドイツ「パンツは恥ずかしい、というのは常識=規則。これはパンツじゃなくてズボン。じゃあ、恥ずかしくないね」
日本「みんな同じ格好じゃん。だから恥ずかしくないもん!」
アメリカ「これは正義。あたしはヒロイン。……こ、これが超音速の世界!?」
イギリス「この格好はレディーのたしなみ(?)。だから恥ずかしいことはないですよ」
フランス「この格好、洒落ていると思いません?……ど、どこが恥ずかしいもんですか!」

 こんな感じで許していただけますかねえ。一応、『ヘタリア』を補助線に『ストライクウィッチーズ』から学んだ国民性のまとめということで。相変わらず、イギリスだけは良く分かりませんでしたが。

最後に妄言

 最後に自分勝手な妄言を。自分が最近『ストライクウィッチーズ』絡みのエントリを真面目(?)に書き散らしているのには少し意味があって、このパンツ一点でキワモノ扱いされ忘れ去られていきそうなこの作品を、そんな単純な消費回路の中で潰させたくないという思いがあります。はっきり言って『ストライクウィチーズ』は悪目立ちしている側面があります。昨年を振り返れば、『こどものじかん』が同じような立場にありました。『こどものじかん』はその突飛な世界観とは裏腹に、あの世界観でなければ描けないシビアな問題(子どもの問題、家族の問題、教育問題……)に取り組んでいる意欲作でした。監督は『MAZE爆熱時空』のキャラクタデザイン等で知られる菅沼栄治氏が務め、作品の質も十分なものでした。しかし現実として、動物的な消費回路に取り込まれてしまい、その本質が見て見なかったことにされているような危惧を覚えました。これに関しては、それなりのパッケージ売り上げもあり、第2期シリーズも製作中であることから、ただの個人的(=おせっかい)危惧に過ぎないかもしれません。そのような反省も含め、はてダをやっている今、自分にできることは『ストライクウィッチーズ』をただのパンツアニメとして潰させないということではないかと思い、このような関連エントリを書いています。しかしこんなのはただのおせっかいに過ぎないのは認識しています。それでも『ストライクウィッチーズ』にまつわる多方面へ向けた言説を少しでもネットの海に放出し、ネットの海を汚染しておきたいと思うのです。

*1:勿論それだけではなく、チャック・イェーガーの愛機の愛称でまた彼の妻の名前でもある「グラマラス・グレニス」にも由来します。小説版「スオムスいらん子中隊」のキャサリン・オヘアも合わせて考えると、アメリカ=グラマーの発想ではないかと思えます。