ファウスト発売だけど、あえて石崎幸二。おかえりなさい!講談社ノベルスへ!

 本日2008年8月8日は、世間的には4年に一度のオリンピック@北京開会式ですが、読書ファンにとっては二年半に一度(?)の『ファウスト』Vol.7発売日だったりするわけです。が、本日はあえてスルー。代わりに、同日発売の講談社ノベルス新作の中から石崎幸二『復讐者の棺』をご紹介しましょう。
 まずは、本作のあらすじをご紹介します。

伊豆沖の孤島にある、経営破綻したテーマパークを買収した大手スーパー。
スタッフが島へ渡り、再建に取り掛かろうとするのだが……。
惨殺死体が入れられた棺の中の一通の手紙が、忌まわしいあの事件を呼び戻す。

 こんな感じらしいです。ここでは記されていないのですが、本作はミリア&ユリシリーズの最新作なのです!……とは言っても、そもそもミリア&ユリシリーズをご存知の方がいるのか分かりませんので、そのあたりを含めて作者である石崎幸二氏をご紹介しましょう。
 石崎幸二は2000年に第18回メフィスト賞を受賞してデビューしました。ちなみに20世紀最後のメフィスト賞受賞者です。そういえば、21世紀最初のメフィスト賞舞城王太郎でしたね。そんなことはさておき、氏は講談社ノベルスから次のような作品を発表されています。

  1. 日曜日の沈黙(2000年)
  2. あなたがいない島(2001年)
  3. 長く短い呪文(2001年)
  4. 袋綴じ事件(2002年)*1

 これらの作品は同一シリーズでして、それがミリア&ユリシリーズと呼ばれています。主人公は石崎幸二。サラリーマン。おっさん(失礼)。あれあれ作者も石崎幸二。サラリーマン。おっさん。……同じです。で、探偵役?相方?のミリア&ユリは花の女子高生。なんか、おっさんっぽい設定です(笑)。世の中には「ドリーム小説」なんていうジャンルがありまして*2、そんな主人公=作者の妄想ストーリーのようですが、その手のいやらしい感じはありません。うら若き女子高生コンビに振り回されるおっさん石崎幸二ていうのは、間違いのない事実ですが。
 作者の石崎幸二も作中の石崎幸二と同じくサラリーマンでして、東京理科大学理学部を卒業後、化学メーカに勤務されているそうです。どこかで、小説は休みの土日のみで書いている、というの記事を目にした気がします。作品からも感じるのですが、とても清廉潔白というか真面目というか、憎めない印象を持っています。
 作風はユーモア本格とでも評したいような感じです。一見、ただの軽いだけのものに見えなくもないです。でもじわじわと心、体に染み込んでくるような温かな(?)キャラクタや台詞回しといい、妙に光る本格センスといい、かなり楽しく読むことができます。「本格」という単語を目にしてビビッと体に電流が走ってしまようなナイス自意識!なあなたは、きっと楽しく読むことができると確信しています。世の中には意外とユーモアミステリを書く人が少なくて(最近だと鯨統一郎くらい?)、貴重な才能のひとりだと感じています。この感覚を味わうには、是非作品を手にとっていただきたいです。
 講談社ノベルスおよびメフィスト賞には、デビュー後3作までは保証されるという暗黙のルールがありました。石崎幸二はデビューから順調に3作出版し、その翌年には密室本企画として『袋綴じ事件』が出版されました。3作のルールを乗り越え4作目までいったのですからもう安心、と思いきや、その後さっぱり音沙汰がなくなってしまいました。次に石崎幸二の名前を目にしたのは、なんと2007年。しかも講談社ノベルスではなく、東京創元社から『首鳴き鬼の島』を出版しました。しかし、また沈黙。デビュー作が『日曜日の沈黙』だけに沈黙を保っているのか、なんてどうでもいい冗句はおいておいて、ていうかデビュー作のタイトルは競走馬「サンデーサイレンス」のただの駄洒落ですし。などと思っていたら、なんと講談社ノベルスから8月に新作が出るというではありませんか!しかもデビュー作から一貫していたミリア&ユリシリーズ。それが本作。
 こりゃ期待してしまいますよ。なんせ前作から6年。あの綾辻行人暗黒館の殺人』(館シリーズ)が12年、有栖川有栖『女王国の城』(江神シリーズ)が8年の待ちぼうけを食いました。デビュー8年の作家で6年待たされたということは、ほとんど待っていただけと等しいくらいです。こりゃ楽しみです。
 石崎幸二の魅力は、軽い中にもその根底に熱い本格ミステリマインドがあることだと思います。読後感がものすごく良く、良質の古典を読んだときのような(これは過言か?)スッキリ感があります。思わず頬が緩んでしまうタイプの作品です。デビュー作からどんどん面白くなっている石崎幸二、本作も楽しく読まさせていただこうと思います。おかえりなさい。講談社ノベルスへ!

謎解きはあざやかに、結末はさわやかに。

 ちなみに本日購入しようと思ったのですが、別フロアで若杉公徳デトロイト・メタル・シティ(6)』と氷川へきるまろまゆ(2)』となぐも。『ラジオでGO!』を買ったら、財布の中身がなくなってしまいました。石崎先生と『ファウスト』は出直して、明日買いに行こうと思っています。いやはや。

復讐者の棺 (講談社ノベルス)

復讐者の棺 (講談社ノベルス)

*1:密室本企画のひとつ。密室本とは、講談社ノベルス20周年を記念して行われた企画で、歴代メフィスト賞受賞者が「密室」をテーマに全編袋綴じの「密室本」の競作を行うというものでした。

*2:ちなみに、現在一般的に用いられている定義とは異なると思います。ちなみに現在「ドリーム小説」というと、BL系2次創作で特定登場人物の名前を自分の名前にすることができる類の小説のことを指すと思われます。