渋谷Q-AXとダメネーミングライツ

 昨晩、セリーヌ・シアマ監督『水の中のつぼみ』を渋谷Q-AXシネマで観てきました。セリーヌ・シアマはフランスの若手女流監督で、今作が監督デビューになるそうです。なるほど若い女性だけはある、といった雰囲気の映画で、いわば少女まんがに対比するところの「少女映画」といった趣です。
 映画の骨子としては、綺麗な同性の先輩に憬れるひとりの少女を中心に、少女期の揺れ動く感情なんかが描かれています。こういうのは本来、男子からは分かりえぬ世界なのですが、少女まんが英才教育とまではいかないものの、それなりの少女まんが教養を獲得済みである自分としては楽しく見れました。またフランス映画ということもあり、日本の百合事情?とフランスのそれの比較もできたりと、興味深かったです。色々と。
 で映画本体については、是非見てください*1と言いたいだけなのですが、問題は観た映画館。東急Bunkamuraの近くで、すぐそばにはシエスパ*2、ON AIR*3のお隣でラブホテルに囲まれた渋谷Q-AXシネマですよ。いわゆる単館系シアターで、なかなか趣味の合うラインナップにお世話になっています。上映前の予告を観ているときからうすうす感づいてはいたのですが、なんか8月下旬頃?から名称が変更になるそうです。せっかく凄く良い名前の映画館なのに……。
 新しいから内外ともに無茶苦茶綺麗で、座席も良く、係員の応対も良い。さらにはTHX音響対応。さて、そんな素晴らしいQ-AXという映画館がどんな名称に変更になるのかというと……。

『渋谷シアターTSUTAYA

 ですって!はっきり言って、映画館に一番似つかわしくない名前です。ことの経緯を調べてみたところ、2008年4月1日にレントラックジャパンがキュー・アックスを吸収合併したため、キュー・アックスという会社がなくなってしまったらしいのです。ちなみにレントラックとはTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の子会社です。でも、だからってこの名称はないよねえ。
 どんなに素晴らしい映画館だって、その名称が「TSUTAYA」だったらレンタルビデオ流してるホームシアターに毛が生えたようなもののように感じられちゃいますよね。個人的には、すでにQ-AXという名前にはある種のブランド力があるとすら思っています。新宿武蔵野館くらいのブランド力はね。自分なんかも作品だけを追っているのではなく、劇場から作品に興味を持つこともあります。
 ネーミングライツというやつがあります。お金を払ってホールとかに名前をつけるわけです。名称自体が最大の広告という、なんだかいやらしい考え方のもとに成り立っている商売ですが、まあそれ自体は否定しません。でも、旧渋谷公会堂が渋谷C.C.レモンホールになった時、がっくりしなかった人はいないと思います。まあ話題になった分、広告効果は高いのでしょうが。ていうか、そもそもサントリーはクラシックに強いサントリーホールなんていう立派なホールを持ってるんだから、渋谷公会堂は「渋谷サントリーホール」とかにすりゃ良かったんだよね。
 映画館でもネーミングライツはあって、2005年末のことですが、有楽町マリオン内の「ルーブル丸の内」が「サロンパスルーブル丸の内」になりました。ちょっと保健室のかほりのしそうな映画館になってしまいました。今回のQ-AXの件はネーミングライツではないですが、ネーミングライツどころか会社自体を買われてしまったわけですから、仕様がないです。
 だけどネーミングライツって、その名前がばんばん新聞とかで取り上げられるような場所じゃないと意味がないはずです。野球場とかのネーミングライツに価値があるのは、野球が国民的なスポーツのひとつで、テレビでは頻繁に中継が行われ、新聞ではその結果が載るから価値があるのです。田舎の田んぼの真ん中に突如として現れるサッカー場味の素スタジアムとか付けてもどうにもならないということです。映画館の場合でも、舞台挨拶がよくあるルーブル丸の内なんかは確かに価値があるのかもしれません。そもそも単館系のQ-AXでは、ちょいと状況が異なります。
 名称変更が一概に悪いと言っているわけではありません。例えば、2005年に渋谷ジョイシネマがシネマGAGAになりました。これはジョイシネマを運営するヒューマックスがGAGAと提携して、GAGA配給を推し推しにするための名称変更でした。名称的にはTOHOシネマズみたいなものです。
 今回のQ-AXをシネマTSUTAYAにするということは、ジョイシネマがシネマUSENGAGAUSEN有線ブロードネットワークスの完全子会社)になるようなことです。劇場名にUSENって入ってるなら、じゃそもそもUSENGYAO)で観れば良いのでは?という印象を与えるでしょう。そもそもCCCだってCKエンタテインメントという配給会社を持っているのだから、シアターTSUTAYAにするくらいならシアターCKにすれば良いんですよ。CK=チョイキモだとか乳首こんにちはだとか思われたくないなら、おとなしくQ-AXブランドを残せば良いんですよ、なーんてDGSな感じ。
 グダグダ書いてしまい申し訳ないのですが、言いたいのはただ一点。名称変更にしてもTASUTAYAは絶対に良くない。できればQ-AXブランドを残して欲しい。Q-AXは映画館としての質の高さ、独特のラインナップでオープンからたかが2年程で小さくないブランド力を獲得している。てこ入れのつもりかもしれないですが、個人的には大変残念です。できることなら*4Q-AXの名前を残して欲しい。それが万人にとって最良の選択であるはずだと思うからです。

*1:といっても、東京では今週金曜までしか公開していません。

*2:爆発しちゃったから、もうないかも。

*3:って書くと、古い人ですね。いつからか良く分かりませんが、気が付いたらShibuya Oという名称になっていました。ON AIR EASTがO-EAST、ON AIR WESTはO-WEST。名前は良く聞くけど、スタンディング嫌いにとっては物理的縁があまりありません。

*4:ちなみに雑な調べなので100%信じないで欲しいのですが、吸収合併されたけれどキューアックスという会社自体は残っているみたいです。ならば、名称を存続させても良いのでは?