新古書店と若者の想像力

 世の中には新古書店なる、よくよく字面を眺めると意味不明な名称の書店が山のように溢れています。20世紀末に大爆発した新古書店ですが、その弊害として出版不況の一因になっているとも考えられています。
 そんな新古書店ですが、書籍を購入するときに、ひとつの基準となることもあります。というのも、人気作は早ければ1週間とかで新古書店の店頭に並ぶからです*1。特に自分はいわゆる「積読」状態に陥ることが少なくありませんので、初めて手に取る作者の場合でかつそれなりに大量に市場に出回っていると予想される場合、お試し的に新古書店待ちをしてしまうこともあります*2。ただデビュー作の場合はそうではありません。デビューへのお祝い金だと思って、新刊書店ちゃんと購入するように心がけています。それは時に勉強料にもなったりするのですが(笑)。
 そのような考えのもとには、新古書店で購入することへの後ろめたさのようなものがあるからです。少なくとも大っぴらに公言できることではありません。そりゃそうです。新刊書店に行けばいくらでも手に入れることができる書籍を古書で購入することが出版市場縮小の一因となるのは、想像に難くないからです。自分の好きな作者でしたら、売れてくれないと続刊が出ませんので、そこに自分も貢献したいわけです。むしろお布施のつもりで複数冊買っても良い、と思う場合もあるくらいです*3。これは自分がお金で貢献しなければ業界が衰退し、自分の読みたい作品が読めなくなる危険性があることを自覚しているからこそです*4
 新古書店は自分が子供(小中学生)くらいの頃は、まだメジャーな存在ではありませんでした。某黄色と赤の新古書店チェーンの数もまだ少なく(というか、自分の生活圏内には存在せず)、あまり馴染みのある場所ではありませんでした。しかし、最近の小中学生にとって、新古書店は当たり前のように存在する日常的な場所になっているようなのです*5。それは夜の某新古書店の風景を見ても分かるように、年端もいかない小学生と思しき男子が店内で少年まんがを座り読みしているのを目にすることも少なくありません。てか、あれは親の育児放棄なのか?
 新古書店の存在が当たり前の小中学生にとって当たり前のようになっている現在、お金のない小中学生にとって新古書店とは巨大な本棚であり、通常よりも安価で購入できる便利なディスカウント書店なのかもしれません。綺麗な店内は新刊書店となんら変わらず、古書店だという意識が薄いように感じられます。
 なぜ急にこんなことを書いているかと言うと、先日配信されたインターネットラジオ『のら犬兄弟のギョーカイ時事放談』の中で紹介されていた、こんなエピソードを聞いたからです*6

偽まる(川瀬浩平)「前に『ドクロちゃん』のおかゆさんに、『ドクロちゃん』のラジオにメールが来たわけですよ。そしたらもう、中学生の無邪気な子からメールが来て「ブックオフで買いましたっ!」って(爆笑)。おかゆさんが「おおおおっ!」って。で、おかゆさんがいないから「ありがとう!」って言っちゃいました」
大野修一「次の巻は新刊書店で買ってね、っていう」
偽「それしか言えないですよね」
里見哲朗「それがいつかね、愛蔵版・定本『撲殺天使ドクロちゃん』が出たときに、買ってくれれば良いわけですよ」
偽「あの時買ったやつだ、ってね(笑)」

 このエピソードを聞いて、吃驚しました。もちろん、作者本人に新刊書店で購入した事実を臆面もなく伝えることができてしまうその神経にです。インターネットラジオ『びん・かんドクロちゃんねる』が配信されていたのは2005年のことですが、すでにそんな時代になっていたのかと気づかされました。もうちょっと、物事の背後への想像力を持ってほしいと感じたのでした。

*1:これは真っ当なやり方で並んでいると思いたいです。新古書店=盗品書籍の換金場所の出現が、書籍万引きの増加に結びついた、などという考え方もあります。

*2:ただ増えすぎた新古書店に新刊がすぐに流れてしまうからか、新刊書店においてちょっと古い「売れ線」以外の品揃えが悪いような気がします。大型書店でも品揃え的には似た風潮がありますので、本当に欲しいものが決まっているときはAmazonを利用するのが一番楽だったりします。

*3:もちろん、買いませんけど(笑)。書籍はスペースとりますからね。ただでさえ山積みになっているのに、これ以上本を増やしてどうする。しかも、捨てられない体質なのに。

*4:特にマイナ作家のファンだと、どうしてもこういう意識をするようになってしまいます。あと印刷部数の少なそうな青年向けまんがのファンだと。それは宿命、ってやつですね。

*5:ただし都市部だけかもしれません。と思ってブックオフのサイトを調べたところ、全国1054店もあるみたいです。まさか沖縄だけで9店もあるとは……。というわけで、おそらく全国的にこんな感じと言えると思います。

*6:『のら犬兄弟のギョーカイ時事放談』第9回(2008年5月29日配信)